2026/05/20 13:05

多くの映画作品のロビーカードを見ていると、日本ではあまり馴染みのないタイトル表記に出会うことも。

 (ロビーカードとは?)



『Bagdad Café』(1987年) の場合もその一つ。


この作品、原題は「Out of Rosenheim」。

製作国であるドイツ国内で使用されたタイトルです。



では「Bagdad Cafe」という日本でもおなじみのタイトルは?というと、

こちらは海外配給向けに公開される際のもの。



「Bagdad Cafe」と「Out of Rosenheim」


「Bagdad Cafe」とは、

 モハーヴェ砂漠にぽつんと存在するロードサイドのガソリンスタンド併設のモーテル。


一方で、「Out of Rosenheim」のローゼンハイムとはドイツの地方都市。

つまり、主人公ヤスミンの出身地を意味するため、


「ローゼンハイムから来た女」

 「ローゼンハイムを離れて」


というニュアンスになります。


2つのタイトルを比較すると

「Bagdad Cafe」   場所ベース

「Out of Rosenheim」 人物ベース


とも言えるでしょうか。



同じ映画でも、タイトルによって視点が変わっているのが面白いところです。


また、ドイツ映画である点に意識してみると、

作品に漂う不思議な空気感が、より浮かび上がってきます。


「どこでもない場所」としてのBagdad Cafe


どこからかやって来て、去っていく人々をたくさん目にしながらも、

どこか時間が止まったかのような、幻想的なモーテル。


「Bagdad Cafe」という名前なのに、 そこは中東のバグダッドではない。


主人公はドイツから来ている。


典型的なロードムービーとも少し違う。


そしてこの映画はを手掛けたのは、西ドイツの監督 パーシー・アドロン。


舞台はアメリカ西部ですが、

原題が示す通り、その視線は「外側から見たアメリカ」。



このような多くの要素が、この作品の空気を曖昧なものにしているのかもしれません。





ヤスミンが取り違えた荷物で新たな生活を始めるくだりは象徴的です。


「Out of Rosenheim」というタイトルを重ねると、


「元いた場所から外れてしまった人たちの物語」


としても見えてきます。



・Out of Rosenheim

・どこでもないBagdad

・通過点なのに止まった空間

・他人の荷物で暮らす主人公


まさに夢の中で起きる「アイデンティティのズレ」 に近い感覚があります。


だからこの作品の砂漠は、なんだか寓話的に見えてきます。

「Calling You」が鳴る瞬間


そして、この映画で欠かせないのが挿入歌の存在。


砂漠の乾いた風景、

 古びたカフェ、

孤独な人々。



それらの風景が、

「Calling You」が聞こえると、なぜか美しく見えてしまう。


誰が、 誰を、 どこから呼んでいるのか。

そんな曖昧さが荒涼とした砂漠を満たす時、

この映画に夢のような漂流観を感じてしまいます。